Moonlight Classic(ムーンライト クラシック) 形式:ML-2C

2.開発にあたって重視したこと

1.概要   2.開発にあたって重視したこと   3.開発経緯・手前味噌レビューへ

 

【デザインについて】
私たちは、オーディオ機器は人の感性や美意識に関わる重大な役割を持っている道具であると考えています。妥協無き最高の音楽環境の提供を通して、所有する方の人生の向上にも寄与できるはずだと、私たちは本気で考えています。
そして、人の身近にあるものとして、相棒となりうるデザイン、インテリアとしても通用するデザインであることは、何にもまして大切なものであると考え、搭載回路と並んで手間隙をいとわない開発・設計・製作を行っています。
最高の状態にまで仕上がった作品だけを製品化し、そしてご縁があったふさわしい方の手元にお届けすることが私たちの何よりの願いです。

【使用部品について】
トランジスター・FETは小信号用のものは全てにローノイズ品を採用しています。ローノイズトランジスターは通常品と比べて電流雑音の発生が少ないために音の滑らかさ・鮮明さ・静粛性などの向上に貢献します。
トランジスター・FETは、回路の潜在能力を引き出すために、影響力の大きい重要な箇所については誤差0.5%以内の高精度選別によるペアリングを行っています。また、高精度選別品の使用を前提としているからこその、ギリギリまで性能・音質を追求した回路設計が可能となっています。
抵抗器は特に効果的な箇所にDALE社のNS−2Bを採用しています。NS−2Bは無誘導巻線抵抗と呼ばれているもので、抵抗器としては破格に高価ですが、電流雑音の発生が少ないと言う点で大変優れており、特に高域のクリアネスについてのフィーリングが優秀であるため採用しています。
横濱音羽製作所は小規模メーカーですから生産数が限られており、NS−2Bをはじめ希少部品を採用することが可能となっています。
また、こういったコストの集中投入、手間を惜しまない生産手段、それらを前提とした設計方法などは、小規模・小ロット生産メーカーの利点を活かした手法です。

【ディスクリートであること】
ディスクリートとはトランジスターやFETなどの個別素子のことです。小さな3本足のアレですね。オペアンプなどのICを使わないで個別素子で組上げた回路を便宜上「ディスクリート回路」と呼んでいます。ML−2Cは搭載回路の全てがディスクリート素子で構成されています。
もちろん、ディスクリートであれば即イコール音が良い、というわけではありませんが、ディスクリート回路であることには次のような利点があります。
@ディスクリートのトランジスターやFETは個々に最適化されて設計・製造されており、ICに内蔵のものと比べて性能が良いことが多い。
Aオペアンプなどの汎用品に比べて自由に回路を組むことができる。非常識な回路でも何でも自由自在です。ただし、音の良い回路の方が少ないです。まずいことに(?)アンプの音質の多くは回路方式で決まります。
B部品の選定など高音質達成のためのチューニングの余地が大きい。
こういった条件を活かして極めつけの音質を追求するわけですね。
ディスクリート回路を採用している一番の理由は、回路追求の可能性が大きく高音質を達成することが出来るからです。音の良い回路はとても少ないですが、そのような良い回路にめぐり合ったときには三食忘れて興奮してしまうほどです。

【負帰還について】
増幅器(アンプ)には入力と出力があります。入力と出力を比べてその誤差を検出し、目標とする出力に近づけることをフィードバック制御といいます。
料理の味付けをするときに、味見をしながらちょっとずつ調味料を足していくのと似ています。実際の味と想像にある味を一致させようとしているわけですね。増幅器の場合はこれを電気的に高速で行います。
フィードバックをかけると出力の歪みを減らすことができます。増幅器の場合にはフィードバックをかけることで最終的な増幅度合いが減少(アンプ回路そのものの増幅率は変化しません)するためにネガティブ・フィードバック、NFB、負帰還などと呼ばれます。つまり、負帰還とは自分自身の増幅力の一部を自己制動に利用することで動作精度を高める手法であるということです。ちなみにこの逆は正帰還と呼びます。
ML−2Cは浅負帰還アンプです。これは正式な名称ではありませんが、負帰還(NFB)を施さない状態での裸特性をできるだけ良くしておき、最小限の負帰還を施しているアンプであるという意味です。
負帰還を利用する増幅器の代表と言えばオペアンプです。オペアンプの多くは1万〜1000万倍の増幅率を持っており、この増幅力の大部分を自己制動に使うことで極めて低い歪み率やフラットな周波数特性など数々の良好な性能を得ています。但し、これだけの増幅率を持つ回路はその代償として裸特性が悪化することが多く、このあたりはトレードオフであるといえます。例えば裸特性が良好ではない場合、100Hzと10kHzでは増幅率や出力信号の位相が異なっていたりします。これに強力な負帰還をかけフラットな周波数特性を得ているのですが、結果として、負帰還による効果が周波数によって異なっているということになります。これは、実際に周波数による歪み率特性の違いとして観測することができます。
もちろんこれは一例であり、オペアンプだから音がワルイなどという単純な善し悪しを意味しておりません。オペアンプの品種によっても事情が異なります。
何を重視するのかは、あくまで設計の考え方ということになりますが、横濱音羽製作所では低域から高域まで負帰還の効果をできるだけ一様に、さらに必要最小限とするほうがメリットがある、と考えて回路設計を行っています。その結果ML−2Cは浅負帰還アンプになった、ということです。

【安定性について】
横濱音羽製作所では増幅回路の設計にあたって、安定性(スタティクス)と不安定性(ダイナミクス)のバランスを如何にとるか、ということを重視しています。
この考え方は、様々な変化に追従・対応しなければならないような多くのものに共通していますが、例えばクルマやバイクなどがわかりやすいと思います。つまり安定性が高すぎれば操舵性が悪化し、不安定性が高すぎれば直進安定性が悪化しフラフラとしてしまいます。では、どうするのかと言うと、専門家の話によれば、低速域では不安定性を増して操舵性を良くし、高速域では安定性を増しビシッと直進するように設計・調整をすることがひとつのポイントなんだそうです。
なるほどというお話しですね。
ところで、負帰還には大きく分けて電圧帰還と電流帰還と呼ばれる2つの方法がありますが、ML−2Cではこの2つを組み合わせて安定性と不安定性を得ています。出力電流の急激な変動に対し優秀な過渡特性を持たせつつ、アバレが出ないように如何にバランスをとるのか、ということは実に面白いところでもあります。
この効果がどういったところに現れるのかと言うと、立ち上がりが鋭く複雑な波形を持つ楽器音の再生時により顕著に現れます。特にピアノ、ギター、パーカッションといった打ち鳴らしたり、はじいたりする楽器は、倍音のような規則性のある波形ではなく、複雑で不規則な波形が瞬時に立ち上がり、共鳴による倍音成分を残しつつ瞬時に減衰してゆくといったパターンを持ちます。
アンプにとっては大変に厳しい相手であると言えます。
このような楽器に対しては安定性を重視しすぎると鮮度の失われた鈍重な音になりやすく、不安定性を重視しすぎるとまるで鼓膜が共振しているかのような耳に痛い不快な音となりやすくなります。特に人間の耳は音波のアタック(立ち上がり)の部分の情報を集中して分析・解読する構造となっておりますので、文字通り、なおのこと耳につくのです。余談ですが、耳が持つこの特性は本来私たちが危険から身を守るために発達させてきたものですので、脳の中でも優先処理されます。聴覚で危険や違和感を感じると強引に意識に割り込まれるのはそのためです。視覚や嗅覚にもこの作用はありますが聴覚が最も強い作用を持ちます。私たちのご先祖様は暗闇のなか風下の背後から襲われることが多かったのでしょうか?
少し話がそれましたが、安定性と不安定性のバランスが高度に保たれたアンプはこういった複雑なアタック成分を持つ楽器に大変良いフィーリングを感じさせます。

【実装について】
ML−2Cは優秀な電流出力特性を持っており、回路を高密度実装することでさらにこの能力を引き出すことができます。信号電流の流路最短化と軌跡最小化がその要点です。小さな基板にぎゅうぎゅうに詰め込みたいと言うわけですね。
ML−2Cは音質を考慮した結果、比較的発熱量の多いA級ドライブアンプとなっていますので、一般的には放熱フィンが必要です。しかし、放熱フィンを使用すると高密度実装の妨げになりますので、放熱フィンを必要としないで済むように発熱量と部品間隔について設計調整をした上で、できる限りの高密度実装を行いました。
こういった手法もA級ドライブアンプのひとつのバランス点であると思います。
そのおかげで、ML−2Cはゆったりと組まれた据え置き型のアンプと比べても性能・音質ともに充分な優位性を持っています。小さな基板に部品が一体となって高速動作をしているような、精一杯頑張っているような、そんな感じがとてもいいです。(?)

【雑音(ノイズ)について】
横濱音羽製作所では背景雑音(ノイズフロアー)を減らすことよりも、電流雑音を減らすことを重視しています。
背景雑音とは、何もしないでも常時発生しているノイズです。正式な名称ではありませんが、発生原因が無数にあるため、それらをまとめて背景雑音と呼びます。常時発生しているので音楽信号と区別して認識がしやすく、一般的にはこれが雑音だと思われています。背景雑音が多いとレベルの低い信号の再生が難しくなります。背景雑音は信号とは無関係に発生するものなので、強力な負帰還を使うことで大幅に低減させることができます。
一方、電流雑音とは、トランジスターや抵抗器などの素子(部品)に電流が流れるときに発生するノイズです。電流雑音は信号電流の変化に相関して発生するので音楽信号と区別するのが難しく、一般的には音そのものの劣化として認識されることが多いでしょう。音の鮮度が失われたように感じる人が多いです。電流雑音を低減させるには回路構成を改良することが最も効果的で、電流雑音の発生が少ない部品を選択することも効果的です。負帰還の効果は回路によりまちまちですが、失われた音の鮮度を負帰還によって回復させることはできません。
背景雑音を減らすことは低レベル信号の再生能力に関わるのである程度は重要ですが、音の鮮度や存在感、鮮明で繊細な音のたたずまい、音場の展開力などへの影響が大きいため、横濱音羽製作所ではアンプの設計にあたって電流雑音の発生が少ないということを大きく重視しています。

【電源回路について】
電源回路は実に重要なものです。
ML−2Cの電源システムは次の点を考慮して設計されています。これらは音の鮮度、リアリティーの良否について大きな影響力があります。
@背景雑音(ノイズフロアー)を減らすことよりも、電流雑音を減らすことを重視
背景雑音とは、何もしないでも常時発生しているノイズです。背景雑音が少ないことも重要ですが、音楽信号への影響度が背景雑音よりも大きい電流雑音を低減させることを重視しています。
A電圧の安定性よりも電流の過渡特性の向上を重視
ML−2Cは安定化電源回路を左右独立で搭載しています。安定化電源は電圧が一定になるように制御されています。そうしないと、増幅回路が設計どおりの能力を発揮できないからです。
ところで、電源である以上、電圧は最低限安定している必要があるのですが、重要なのは過渡特性です。過渡特性というのは急激な変化にどのように追従していくのか?ということです。
いかなる制御であっても変動に対し完全に追従することはできません。つまり、行き過ぎや、遅れが生じるのですが、重要なのは出力電流についての制御パターンが音楽的に自然であるか?ということです。
ML−2CはA級ドライブアンプですからアンプ全体としての消費電流は一定なのですが、アンプ内部では後述のデカップリングに関わる電流の変動が起こります。この変動はヘッドホンなどの負荷から電源回路へと直接伝わるために、電源の電流過渡特性が音のクオリティーに影響を与えるのです。
こういった理由から電圧よりも電流の過渡特性を重視した設計を行っています。
Bチャンネルセパレーションの向上を重視
前項と関係があるのですが、信号電流のループ(つまり回路ですね)を、ある限定的な範囲で完結させることをデカップリングといいます。右チャンネルの信号ループは右チャンネル内だけで完結させないと左チャンネル内にもはみ出します。そうすると右と左の信号が影響しあって一部が交じり合います。これをチャンネルセパレーションの悪化、クロストークの悪化などと呼びます。これが起こるとステレオ定位があいまいになったり、空間表現力が悪化したりします。ML−2Cではデカップリングを強固に行うことでチャンネルセパレーションを向上させ、ステレオ定位感や空間表現力について高い品質を達成しています。
余談ですがデカップリングが不十分なアンプは信号電流のループが電源回路を通り抜け、電源トランスを通り抜け、アンプの外にまで達してしまいます。このようなアンプは電源ケーブルにまで信号電流が乗っており、ケーブルの静電容量によるループを形成しています。従って、当然ですが、電源ケーブル交換による影響を大変に強く受けます。恐ろしいことに、それでもループの形成が完了しない場合には、信号電流はループ形成のため、さらに上流にさかのぼることになります。ちなみに、ハイパワーアンプほどこの現象は顕著に出ます。いろんな意味でもデカップリングは極めて重要です。

 

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